「磁性材料・磁気工学・磁気計測の開発研究を支援します」(Tohoku-TMIT)

磁性材料・磁気工学入門

 

© 2019 Yutaka Shimada

補足Ⅲ 微粒子の透磁率

 第7章では、微粒子についていろいろな面から説明しましたが、内容が拡散気味だったので、ここで微粒子と透磁率の関係に絞って補足することにしました。また最近、透磁率の高い微粒子材料が話題になることが多くなり、一般にそのやり方は、軟磁性の金属素材の微粒子を、表面に絶縁コーティングして圧縮して充填率を上げることで、形状の自由度が高く、高電気抵抗で高透磁率のコア(圧粉鉄心)を作るというものです。この方法は、第7章で述べた通り、低周波のモーター、パワーインダクタ用の磁心には通用しますが、およそ10MHz以上の高周波になると微粒子サイズを小さくする必要がある、また、圧粉鉄心はバルク状に作られるので、微小化、2次元化(薄板、シート状、薄膜化)が難しい、などの問題があります。一方、微粒子を樹脂などの媒体に混ぜ込んでペースト状にする方法では、形状の自由さが増して薄膜に近いシート状材料などが可能で、今後の高周波素子には使える方法です。しかし、圧粉鉄心ほどの充填率はなく、微粒子集合体としての透磁率は、どうしても下がります。そこでここでは、ペースト状にしたときにも透磁率を上げる方法や新材料がないか、をテーマにし、ここ10年くらいで実験をした結果を説明します(参考文献 Ⅲ-1)。もちろん、個人的見解が満載で、教科書的な読み方は、あまりよろしくありません。

 図Ⅲ―1は、第7章図7-2と同じです。軟磁性材料の微粒子の集団がある時に、外部磁界によって出てくる微粒子の透磁率に何が関係しているか、をごく簡単なモデルで考察したものです。

図 Ⅲ―1

 図の(a)では、微粒子はそれぞれ内部で磁束がクローズしています。これは、微粒子の素材が軟磁性なので、磁束が外に出ないように内部で何らかの閉じた磁気構造を作っていることを表し、第5章で説明した、できるだけ磁束を外に出さない磁区構造と同じですが、内部の3次元的磁区構造はわからないので、閉じた丸い矢印で表しています。ここに、(b)のように外部磁界がかかると、閉じた磁気構造が壊れて、微粒子それぞれが磁化 i を持ちます。これによって生じた磁束は外部に漏れ出て、図のように微粒子の磁化  i  を繋ぐようにして外部磁界方向に分布し、微粒子集合体の外部にも出てきます。この外部磁界と外に出てくる磁束密度の大きさの比が透磁率になります。図 Ⅲ-2は、平均直径約1μm の Fe 微粒子を樹脂で固めた時のVSM(第8章)によるM-H曲線です。SI 単位ではなくcgs(emu) 単位です。Fe の飽和磁化は  SI 単位では2.2テスラ、emu単位では22000/4π = 1751  (emu/cm3) ですが、図の M は、図  Ⅲ―1の i を単位体積中で総和した値で、充填率の分だけ下がっています。M は、最初は磁界に対して比例的に増加し、やがて飽和しますが、この磁界の変化は反磁界そのものなので、反磁界係数を Nd とすると、Hd = NdM となり、図から、M = 400(emu/cm3)で Hd は約1000Oe なので、Nd = 1000/400 = 2.5 となります。第3章、第7章では、孤立した球状粒子の Nd は 0.3 でしたので、図Ⅲ-2 の程度に集まると反磁界がかなり減ることになります。透磁率で見ると、孤立球体の透磁率は μi/μ0 = 3 に対し、このFe集合体は μi/μ0 = 7 くらいまで上がっています。 図Ⅲ―3は、この集合体を厚さ100μmくらいのシート状にしたときの初透磁率の測定結果です。初透磁率は周波数に対してほぼ一定で、1~2GHz付近で磁気共鳴が起こります。この磁気共鳴の Hk(第2章 図2-2)は、Fe の結晶磁気異方性の異方性磁界Hk に近いので、Fe の素材として自然に起きる磁気共鳴を観測していることになります。

図Ⅲ―2

図Ⅲ―3

 このFe微粒子の集合体の透磁率を上げるには、以下のような方法があります。ナノサイズ(約10nm)の Fe 酸化鉄( Fe3O4 が主成分、Fe-O とする)の微粒子をFe微粒子に混合し、強い磁界中で固化すると、図 Ⅲ-4のようになります。右図は、Fe 微粒子のみ、左図は、混合体です。Fe が Fe-O でつながっているのがわかります。これは、Fe 球の間にある、反磁界を増やしている磁気的なギャップを Fe-O で埋めた構造です。

図Ⅲ-4

 図Ⅲ―5は、この構造ができる理由です。A(Fe)とB(Fe-O)の混合体に強い磁界をかけると、図Ⅲ―1(b)のようにFeが大きな mi をもつので、Fe粒子の間のギャップにはひじょうに強い磁界(第3章図3-1-1の反磁界です)ができる。その吸引力で B が集まる、つまり、反磁界が強いギャップを選んで効率的に B が集まり、その結果、反磁界を下げて透磁率を上げる、というわけです。そんな面倒な説明をしなくても直感的にわかる話ではありますが、磁気の吸引力をうまく利用して、微粒子のギャップを埋めている、という点に面白さがあります。

図Ⅲ-5

 図Ⅲ-6は、混合体をシート状にした試料の初透磁率の測定結果です。赤と緑は、Fe と Fe-O の単体、ブルーは体積比9:1に混合しています。Fe-O の透磁率はわずか 1 ~ 0.5 くらいですが、それを10%程度入れると、ギャップの反磁界を消す効果は絶大で、微粒子としては高い透磁率を磁気共鳴まで維持しています。

図Ⅲ-6

 図Ⅲ―7は、Fe と Fe-O の比率を変えた混合体の透磁率です。9:1のあたりが最高になり、あとは低下するばかりです。これは、透磁率の低いFe-Oが過剰に入るので、単位体積の透磁率が低下するということになります。もっと Fe-O よりも透磁率の高いナノ粒子を使えばいいのですが、現実に探してみると、1μm以下で透磁率の高い微粒子材料は、どうもこれまで真面目に開発されたことがないようで、実用素材として入手することは不可能なようです。

図Ⅲ-7

図Ⅲ-8

 図Ⅲ-8は、Fe50Ni50 の平粒径10μmを主成分 A として、Fe+Fe-O を小サイズ粒子 B として使用し、上記と同じ複合効果を確認したものです。非常に高い透磁率が得られましたが、残念ながら、この粒径では高周波で使えません。図Ⅲ-9は、透磁率 μ’ と μ” の周波数特性ですが、周波数上昇に伴って、μ’が低下し、μ”は低周波から大きくなります。これは、第7章の微粒子の渦電流損失が原因です。

図Ⅲ-9

 つまり、第7章図7-4、図7-5で説明したように、サイズの大きい微粒子材料は、低周波では規模の大きい応用が期待できますが、数MHz以上になると、およそ1μm以下の微粒子でないと使えないのです。第7章7-3項では、このサイズ領域の高透磁率微粒子として、アモルファス微粒子を紹介していますが、これまで1μm以下の微粒子で透磁率の高いものはほとんど発表例がないので、ここでは、かなり我田引水になりますが、これについてもう少し詳しく説明します。

  第5章では、遷移金属を主成分とするアモルファス材料が優れた軟磁性を持つことを紹介しましたが、これを微粒子にすれば、やはりいい軟磁性をもつことが期待できます。化学メッキでは、Fe-B アモルファス薄膜を作成した例があり、まあまあの軟磁性が得られます。これをアモルファス微粒子とするには、化学メッキの浴を利用します。通常の化学メッキでは、遷移金属のイオンを含む反応浴を注意深く還元し、遷移金属を基板上に析出させます。良質の薄膜を作るためには、反応浴からイオンがゆっくり還元されることが重要で、そのために、いろいろな安定剤、PH調整剤によって浴を安定化し、これが壊れない程度の還元剤を入れます。この時、浴の安定化に失敗すると、還元が雪崩的に進行し、浴の崩壊がおこります。遷移金属イオンは急速に還元されて、基板上でなく、浴全体に析出します。つまり、微粒子を作るわけです。この微粒子に目をつけて、上記の1μm以下の軟磁性微粒子ができないか?が実験のテーマです。詳しくは、(参考文献 Ⅲ-1)を見てください。

図Ⅲ-10

 図Ⅲ-10は、反応浴の例で、塩化鉄を蒸留水に溶かし、Fe イオンを作ります。その他、安定剤、還元剤、PH調整剤などを入れて、還元剤を滴下し浴を崩壊(急速還元)させます。Fe イオンが還元されてFeが析出するときには、B、Pとの親和性が強いので、Fe-B-Pの微粒子ができます。浴組成を調節すると、アモルファ薄帯と同様な組成を持つアモルファス微粒子ができます。図 Ⅲ-11は、TEM(透過電子顕微鏡)によるアモルファス微粒子の観察例です。図の電子線回折像から、300℃まではアモルファス、400℃では結晶相に移行する前兆、500℃では完全に結晶化しています。この変化はアモルファス薄帯とほぼ同じです。この微粒子の飽和磁化は、アモルファ薄帯(第5章)と同様な大きさがあり、軟磁性材料として充分です。

図Ⅲ-11

 ただし、図でわかるように、微粒子内部には、微粒子が成長した構造が残っていて、均一な金属相ではないので、磁気モーメントの回転(磁化反転)には障害となる、つまり Hc が高くなる要因になります。実際、第5章のアモルファス薄帯に比べて一桁高く 1~5Oe位、しかし微粒子としては十分に低く、透磁率に寄与する磁化反転は、第7章 図7-3の充填率、つまり反磁界が支配的要因になります。図Ⅲ-12は、平均直径0.3μmのアモルファス微粒子の透磁率です。透磁率の大きさは、試料の充填率を使って第7章(7-5)式から μi を計算したものです。図のFeSiBCr(3μm)の μi は、渦電流によって高周波では低下し、サイズの大きい高透磁率微粒子の問題が明瞭に出ています。

図Ⅲ-12

 さらに微粒子の透磁率を上げるために、もう一つの工夫があります。図Ⅲ-11の反応槽の底に円盤状の永久磁石を置いて微粒子を合成すると、ファイバー状の粒子ができます。図Ⅲ-13は磁界中合成の例で、(b)は、さらに小サイズの粒子がその成長過程で団子状につながり、ファイバーの集団になります。この形成のメカニズムは、(参考文献 Ⅲ-1)をあたってください。

図Ⅲ-13

 この長い形状の粒子(ファイバー)のメリットは、形状異方性(第3章)が効いて長軸方向に反磁界が減り、その方向の透磁率が高くなります。さらに磁界中で方向の揃ったファイバーを樹脂を使って固化すると、磁界方向に非常に高い透磁率を示すようになります。

図Ⅲ-14

 図Ⅲ―14は、磁界中合成のファイバー材料を、磁界無しの球状粒子(図Ⅲ―13(a))と比較しています。ファイバーの長さ方向には反磁界が大きく減少し、B-Hカーブが立ち上がって、透磁率が大きく改善されます。図Ⅲ―15は、この試料の透磁率で、ファイバーの長さ方向(e.a.)、その直角方向(h.a.)です。長さ方向では、透磁率が約25ですが、この試料の充填率は29%なので、100%を仮定すると89.4になります。また、磁気共鳴プロファイルの幅が広くなっています。これは、ファイバーの長さが一定でなく、反磁界にも幅があることを反映しています。

図Ⅲ-15

 図Ⅲ-16では、このファイバーの透磁率を他の微粒子と比較しています。横軸は、各種の微粒子のサイズで、透磁率、Hc がサイズに依存して大きく変化します。この原因は、はっきりとは説明できませんが、サイズが低下すると、内部欠陥の増大、粒子表面の凸凹、ストレス、不純物の影響が大きく出ること、形状自体が球状から多様な形になることなど、いろいろ考えられます。1μm以下になると、応用面で興味を引くような透磁率の高い微粒子を見つけるのは困難になります。

図Ⅲ-16

 ここで紹介したアモルファス微粒子は、サブミクロンサイズにしてはまだ Hc が小さく、透磁率もそこそこに高く、さらにファイバー状にすると、例外的に高い透磁率になります。

  上記の二つの方法が実用化に役立つかどうか、全然わかりませんが、反磁界を減らすために粒子を連結すると効果的、サブミクロン領域でも高透磁率微粒子が得られる、粒子形状を変えるとさらに改善、という三つの結果を実証したことになります。高周波用微粒子材料開発に役立てば幸いです。

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